預言者たちの物語 ヌーフ(ノア)

この本はアラビア語で子供向けに書かれたアブー・アル=ハサン・アリー・アンナダウィー著:「預言者たちの物語」を参照にして日本語に訳したものです。預言者たちの物語では勇気と忍耐、誠実さ、優しさ、謙虚さなど様々な側面を読んで学ぶことができます。
子供たちに預言者たちの生涯と歴史を通じて沢山のことを学んでほしいという思いの作品です。本書はヌーフ[ノア](彼の上に平安あれ)の紹介です。

اسم الكتاب: قصص النبيين للأطفال : قصة سيدنا نوح عليه السلام


تأليف: أبو الحسن الندوي


ترجمة: محمد صالح كانيكو


الناشر: المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة


نبذة مختصرة: كتاب مترجم إلى اللغة اليابانية، عبارة عن قصة سيدنا نوح - عليه السلام - للأطفال، والكتاب مقتبس من كتاب قصص الأنبياء للأطفال لفضيلة الشيخ أبو الحسن علي الندوي - اثابه الله -.

 

預言者たちの物語
ヌーフ(ノア
(アレイヒ アッサラーム)


< ياباني日本語 - Japanese - >
    
        

 

アブー・アル=ハサン・アリー・アンナダウィー

 



 

翻訳:ムハンマド・サーリフ 金子
校閲:アブドッラー 坂田

 


 قصص النبيين
للأطفال
نوح عليه السلام

 

    
    
تأليف
أبو الحسن علي الندوي

 




ترجمة: محمد صالح كانيكو
مراجعة: عبد الله ساكاتا

بسم الله الرحمن الرحيم


―アーダムが去ってから―

むかし… むかし…。

これは…人間の父祖であるアーダムがこの世を去ってからの
お話です…。
アーダムがこの世を去ってから、いつしかその子孫たちは沢山
になりました…。
もしもアーダムがもう一度、現世に戻れて自分の子孫たちの
多さを知ったらきっと驚くに違いありません…。
アーダムの子孫たちは沢山の集団となりました。
アーダムの子孫たちは沢山の家を建てました。
土地を耕し農作物を収穫して生活していました。
かつて人々はアーダムから教えられたことを大切にしていまし
た。つまり、ゆいいつの神アッラーだけを大切にしていたのです。
むかし…人びとはひとつの集まりでした。
みんなアーダムの子孫でした。
そしてゆいいつの神アッラーだけを大切にしていたのです。

 

―シャイターン(悪魔)のねたみ―

しかし…
シャイターンはアーダムの子孫たちを憎んでいました…。
いつまで人間はゆいいつの神アッラーだけを大切にして
いるのか?
いつまで人間は仲たがいもせず、ひとつの集まりのままで
いるのか?
そんなこと決して、あってはならない!
そんなこと決して、あってはならない!
そんなふうにシャイターンは思いました。
アーダムの子孫たちが天国に入るなんて…。
シャイターンはアッラーの命令に背き、アーダムにひれ伏す
ことをしませんでした。
そのためゆいいつの神アッラーから呪われたのです…。
アーダムの子孫たちを迷わせてやる…とシャイターンは思い
ました…。

―シャイターンの考え―

シャイターンは知っていました…。
ゆいいつの神アッラーは沢山のことを赦されるお方だと…。


でもただひとつだけ… 赦されないことがありました。
それはゆいいつの神アッラーと一緒に他のものを崇(あが)める
ことです。これはシルクと呼ばれました。
シャイターンは考えて、考えて、人間がゆいいつの神アッラー
だけを大切にすることをやめさせたいと思いました。
でもどうしたらいいのか…?
人間はゆいいつの神アッラーだけを大切にしているし…。
もしも人間に直接、「ゆいいつの神アッラーだけ大切にするのを
やめて他のものも崇(あが)めなさい」と言っても…
人間から責められて… 打ちのめされるだけだ…。

シャイターンは考えました。

―シャイターンの罠(わな)―

むかし…人びとは、ゆいいつの神アッラーだけを大切にして
いました。
そして同じように人びとは、ゆいいつの神アッラーだけを
大切にしている人びとのことが好きでした。
その人たちのことをとても尊敬していたのです。
そしてシャイターンは、そのことをよく知っていました。

 

シャイターンはよい行いをしていた人物が亡くなったとき
人びとに尋ねました:「生きていたとき…あの人はどういう
人でしたか?」
「この人は…?」
「その人は…?」
人びとは言いました:
「とても立派な人でした…」
「ゆいいつの神アッラーだけを大切にして彼らが願い事をすれ
ば、ゆいいつの神アッラーはその願い事にお答えになられま
した」と。

―尊敬する人びとを描くこと―

シャイターンは尋ねました:
「尊敬する人びとが亡くなって…あなたはどういう気持ちです
か?」
「すごく悲しいですか?」
人びとは言いました:
「すごく悲しい…」
シャイターンは尋ねました:
「彼らが亡くなって…あなたは寂しくないですか?」

 

人びとは言いました:
「すごく寂しい…」
シャイターンは言いました:
「それならどうして毎日、彼らを見ようとしないのですか?」
人びとは言いました:
「彼らはもうすでに亡くなっているというのに…どういう方法
があるというのか?」
シャイターンは言いました:
「彼らの絵を描いて毎朝、眺めればいいのです」

人びとはとても驚きました…。

そして尊敬する人たちを絵に描くというアイデアをとても気に
入ったのです。
それから人びとは毎日、絵を見るようになりました。
そして尊敬する人たちを思い出していたのです…。

―絵から彫像に―

いつしか尊敬する人びとを絵ではなく彫像として、人びとは
家の中に置くようになりました。
むかし人びとは、ゆいいつの神アッラーだけを大切にしていま
した。


ゆいいつの神アッラーと一緒に他のものを崇(あが)めたりは
しませんでした。
人びとは、はじめこれは尊敬する人びとの彫像として見ていま
した。これは石でできていて、特に人びとを益するわけでも害する
わけでもありません…。
人びとに食べ物などを与えてくれるわけでもありません…。

しかし… 人びとはいつの間にか彫像には祝福があると考える
ようになりました…。
そして大切にするようになりました…。
なぜならそれは尊敬する人びとの彫像だったからです。

―彫像から神様に―

時間が過ぎてから、いつの間にか彫像には祝福があると子供
たちは両親に教えられるようになりました…。
そしてその様子を見て育ちました…。
両親はとてもとても彫像を大切にしていたのです。
両親たちはいつしかお願い事をしたり、動物を捧げたりする
ようになりました…。
そしてついに彫像は神様として考えられるようになったの
です…。


人びとは以前、ゆいいつの神アッラーだけを大切にしていたよう
に彫像も大切にするようになりました。
そしてたくさんの彫像を造りました。
そしてそれぞれにいろいろな名前を付けたのです。

―ゆいいつの神アッラーの怒り―

ゆいいつの神アッラーは人びとに対してとてもお怒りになられ
ました…。
彫像が人間を創ったとでもいうのか?
彫像が人間に食糧を与えているとでもいうのか?
ゆいいつの神アッラーはとてもお怒りになられました。
そして人びとに雨をおくることを制限しました。
そして人びとの生活は苦しくなりました。
収穫物は減り子孫の数も減りました。
しかし人びとは考えようとはしません…。
人びとは赦しを乞おうとはしませんでした…。

―使者―

ゆいいつの神アッラーは彼らの民から人を選びました。
ゆいいつの神アッラーのことを人びとに教えるためにです。
ゆいいつの神アッラーは一人一人に話しかけたりはしません。


ゆいいつの神アッラーは一人一人にこうしなさいと直接、命令
はしません。
国の王様が自分の国の人びと一人一人の所へ行って直接、命令
しないのと同じです。
国の王様は人間です。
人びとは彼を見ることも彼の話を聞くこともできます。
しかしゆいいつの神アッラーについては、誰も彼を見ることも
彼の話を聞くこともできません。
ゆいいつの神アッラーがお望みになられる人を除いて…。
そのためゆいいつの神アッラーは、彼らの民から人を選びまし
た。ゆいいつの神アッラーのことを教えるためにです。

―人間から?天使から?―

ゆいいつの神アッラーはその使者を人間から選ばれました。
同じ民の中から一人を選ばれました。
人びとが彼のことを知っていて、彼らと同じ言葉を話す人を選ん
だのです。もしも使者が天使だったら… 人びとはこのように言
うでしょう:
「これは人間ではなく天使に命じられたことです」
「彼らは天使で、自分たちは人間なのだから…」と。
「天使はのどが渇くことがありません…」
「お腹が空くこともありません…」

「病気になることもありません…」
「死んでしまうこともありません…」
「それだからゆいいつの神アッラーのことをいつも大切に崇
(あが)めていられるのです…」と。
そしてこのように言うでしょう:
「私たち人間はのどが渇きます」
「お腹も空きます」
「病気にもなります」
「いつかは死んでしまいます」
「それならどのようにして、ゆいいつの神アッラーのことを
いつも大切に崇(あが)めていられるでしょう?」と。

しかし…もしも使者が人間なら…。
使者はこのように言うでしょう:
「私はあなたたちと同じ人間です」
「のども渇きます」
「お腹も空きます」
「病気にもなります」
「いつかは死んでしまいます」
「そしてゆいいつの神アッラーのことをいつも大切に崇(あ
が)めています」
「どうしてあなたたちは、ゆいいつの神アッラーのことをいつ


も大切に崇(あが)めないのですか?」と。
人びとは言い返せなくなるでしょう…。
人びとは言い訳ができません…。

―使者 ヌーフ―

ゆいいつの神アッラーはヌーフという名前の人物を彼の民から
選ばれました。そして使者として送ったのです。
かつてヌーフの民には、お金持ちで地位の高い人びとがいまし
た。しかしゆいいつの神アッラーは、使者をそのような人びとの
中からは選ばれませんでした。
ゆいいつの神アッラーは誰が使者にふさわしいかをご存知で
した。
ヌーフは正しい行いをするとてもすばらしい人物でした。
とても賢く苦しいことにもよく我慢できる人物でした。
とても思いやり深く、人びとに話すことのできる人物でした。
そしてとても正直で信頼のおける人物だったのです。

ゆいいつの神アッラーはヌーフを彼の民への使者として選びまし
た。そしてゆいいつの神アッラーは、ヌーフに次のように命じま
した:
「痛ましい罰があなたの民に下る前にあなたは、彼らに警告しな


さい…」
ヌーフは自分の民の前に立ち次のように言いました:
「本当に私はあなたがたへの誠実な使者です」と。

―民の反応―

ヌーフが民の前に立ち
「本当に私はあなたがたへの誠実な使者です」
と言ったとき、何人かの民の人びとがヌーフに向かって言いま
した:
「この人物はいつ預言者(よげんしゃ)になったというんだ?」
「きのうまで自分たちと同じだった者が今日、自分は預言者
だと言っておるぞ!」
ヌーフの友人たちは言いました:
「幼いころ自分たちはよく一緒に遊んだし毎日、一緒に過ご
していたのに…いつ、預言者になったというんだ?」
「夜か?それとも昼の間に?」
民の中のお金持ちで高慢な人びとは言いました:
「ゆいいつの神アッラーは彼以外にもっとふさわしい人物を
見つけられなかったのか?」
「民の中で貧しい者よりも、もっとふさわしい人物が見つから
なかったのか?」


そして無知な人びとは、言いました:
「あなたたちと同じ只の人間ではないですか…」
「もしもゆいいつの神アッラーがお望みなら天使を遣わす
べきです」
「私たちのむかしの先祖からもこんなことは聞きませんで
した」
そして人びとは、言いました:
「ヌーフはこうやって高い地位や名誉が欲しいのだろう…」

―ヌーフと民の会話―

その当時、人びとは彫像など形あるものを大切にして崇(あ
が)めることがもっとも正しいことだと信じていました。
もしも彫像など形あるものを大切に崇(あが)めない者がいた
としたら、その人物はまちがった考えをもった者、もしくは無
知な者として見られたのです…。
ヌーフの民の人びとは言いました:
「私たちの先祖は彫像などを大切に崇(あが)めていたというの
に、この人物はそれを拒否するらしい」
ヌーフは彫像などを大切に崇(あが)めるのは間違っていると
思いました。
ヌーフは思いました…。先祖の先祖をたどっていけば、いちばん


始めにいるのはアーダムです!
アーダムはゆいいつの神アッラーだけを大切に崇(あが)めて
いました。アーダムは彫像などを崇(あが)めたりはしません
でした。
それゆえ民の人びとは間違っていました…。
何を大切に信じるべきかを誤っていました…。
本当に人間を創造したゆいいつの神アッラーだけを崇(あが)
めるということを忘れてしまっていたのです。

ヌーフは自分の民に向かって大きな声で言いました:
「私の民の人びとよ、ゆいいつの神アッラーにつかえなさい」
「ゆいいつの神アッラーのほかに神はいません…」
「本当に私は大いなる日の罰をあなたがたのために恐れて
います」
ヌーフの民の長老たちは言いました:
「私たちからするとあなたこそ明らかに間違っていると思う」
ヌーフは言いました:
「私の民の人びとよ、私はゆいいつの神アッラーから教えられた
ことをあなたがたに伝え助言する者です」
「私はあなた方が知らないことをゆいいつの神アッラーから
知らされている者です」

 

―ヌーフに従う者たち―

ヌーフはとても努力しました。
自分の民の人びとがゆいいつの神アッラーだけを大切に崇(あ
が)めるように…。
しかしヌーフの言葉を受け入れてくれるのは、彼の民の中から
ほんの一部の人びとだけでした。
彼らは自分の手で糧を稼いでいた人びとでした。
一方で民の中の裕福な者たちは、彼らが持つ高慢さのために
ヌーフの言葉を聞こうとはしませんでした。
ヌーフに従わなかったのです。

彼らは現世で財産を集めることに忙しく、死んだあとのことを
考えたりはしませんでした。
そして彼らは言いました:
「私たちには地位も名誉もあります」
「ヌーフに従っているのは、見捨てられた者たちばかりです」
また彼らはこうも言いました:
「もっとも卑しい者たちが、あなたに従っているというのに…」
「私たちにまであなたを信じろというのか?」
「ヌーフよ、あの貧しい者たちを追放しなさい」
ヌーフはそのことを拒否しました。


そして言いました:
「私は信仰する(従う)者たちを追い払いはしません」
「私は一人の警告する者にすぎないのです…」
ヌーフは知っていました。
あの貧しい人びとは本当に正しい人びとだということを…
もしも私があの貧しい者たちを追い払ったならば…
私はゆいいつの神アッラーの怒りを受けて誰も私を助けられる
ものはいないでしょう。

―裕福な人びとの言い分―

民の中の裕福な人びとは言いました:
「ヌーフが教えていることは正しくない…」
「よい教えではない…」
なぜならよきものはすべて我々の方にある。
私たちには美味しい食べ物があり素晴らしい服を持っている。
人びとは皆、私たちに従うものばかりである。
もしも正しい教えならば、私たちが間違っているはずがない。
もしもこの教えが正しいのであれば、あの貧しい者たちが
私たちよりも先に導きを受けるはずなどないのだ…。

 


―ヌーフの呼びかけ―

ヌーフは民に対して、ゆいいつの神アッラーへと呼びかける努力
を続けました。
ヌーフは言いました:
「私の民の人びとよ、定められた期限まであなたたちは猶予
されます。ただし期限が来てしまった時には、もう猶予され
ません」
「ゆいいつの神アッラーはあなたがたのいろいろな罪を赦して
くれます。私の呼びかけに従ってください…」

ゆいいつの神アッラーはヌーフの民にお怒りになられました。

そして雨が降らなくなりました…。
収穫物が不足するようになりました…。
子供たちの数も少なくなりました…。

ヌーフは民の人びとに言いました:
「私の民の人びとよ、私の呼びかけに従ってください」
「そうすればこの災いは取りのぞかれるはずです」
私たちの周りにはゆいいつの神アッラーが創造された「しるし」
がいろいろとあります。

 

ただし人びとは現世のことに忙しくて、なかなかそういう「し
るし」について見たり考えたりすることはありません…。
ヌーフは民の人びとに言いました:
「私の民の人びとよ、周りにあるものをよく見てみるがいい」
「空や大地…」
「そして太陽や月…」
「誰が空や大地を創ったのか…」
「誰が月に光をあたえ、太陽を動かしているのか…」
今一度よく考えてみるがいい。
「誰があなたたちを創ったのか…」
「誰が大地を広げたのか…」

しかし…ヌーフの民は認めませんでした…
しかし…ヌーフの民は信じませんでした…
ヌーフはゆいいつの神アッラーのことを民の人びとに伝えよう
としました。しかし彼らは耳に指を入れて何も聞こうとは
しませんでした…。
聞こうとしなければ理解することはできません…
聞くことを嫌がる人びとにどのようにして聞かせることができる
でしょう…。

 


―ヌーフの祈り―

それから…長い時間が過ぎました…
ヌーフは自分の民のもとに住み… 950年もの間、人びとに
ゆいいつの神アッラーだけを大切に崇拝(すうはい)するように
呼び掛けました。
しかし…民の人びとはヌーフの言葉に従いませんでした…。
いつまでも彫像のような形あるものを大切にしていました…。
ヌーフはどのくらいの時間を待てばよいのでしょう…
いつまでこの状況を見続けなければいけないのでしょう…
ヌーフは誰も真似することができないほどの我慢をし続けたの
です…。

ヌーフはアッラーから次のような啓示をうけます:

「すでに信仰した者のほかは、もうあなたの民は信仰しない
であろう」
「だからかれらの行いについて悩んではならない…」と。
ヌーフが彼の民にそれでもあきらめずに呼び掛けたとき
人びとは次のように言いました:
「ヌーフよ、あなたは私たちと議論して私たちとの論争を長引
かせました」


「もしあなたの言葉が真実ならば、あなたが約束したその懲罰
というものを私たちにもたらしなさい」

―船(ふね)―

ゆいいつの神アッラーはヌーフに大きな船をつくるように命じ
ました。
そしてヌーフと一部の民の人びとが船をつくり始めました。
ヌーフの民の人びとは、ヌーフたちが船をつくっているのを見て
笑っていました。
そして言いました:
「やあ、ヌーフよ!」
「いつから大工になったんだ?」
「私たちはあなたに忠告したじゃないか?」
「見放された者たちと一緒にいないようにと」
「それでもヌーフよ、そなたは私たちの話を聞かなかった」
「そして見てみなさい!」
「そなたは大工になってしまったというわけだ」
船は大地の上につくられました。
そしてヌーフの民の人びとは言いました:
「やあ、ヌーフよ!」
「この船でどこに行こうというんだい?」


「本当にそなたがすることには驚かされる…」
「この船は砂の上でも走るというのか?」
「それともこの船は山でも登るというのか?」
「海はこの場所からとても遠いんだぞ!」
「ジン(幽精)か雄牛が海まで運んでくれるのか?」

ヌーフはそれらの言葉を全部、聞いていました…
それらの言葉よりも、もっとひどいことも言われました…。
それでもヌーフは耐えたのです…。

―洪水―

そしてその日がきました…。
たくさんの雨が降ってきました…。
大雨が降って、降って、降って… それは止むことがありませ
んでした。
視界は雨一色で誰も止めることができません。
人びとの傍らを大量の水が流れていきました…。
ゆいいつの神アッラーはヌーフに次のように言いました:
「そなたの民の中から正しく信仰するものや家族を船に乗せな
さい。またすべての動物のつがい(オスとメス)も船に乗せな
さい」


ヌーフはゆいいつの神アッラーから啓示を受けたとおり民の中
から正しく信仰するものとその家族、そしてすべての動物の
つがい(オスとメス)を船に乗せました。
そして大洪水が来たのです…。
船は山のような大波の上を走りました。
ヌーフの民の者たちは大地にあるもっとも高い丘の上へ逃げ
ました。
しかし船に乗り合わせた人や動物たちを除いてヌーフの民の
人びとはだれも助からなかったのです…。

―ヌーフの息子―

ヌーフには息子がいました。
ヌーフの息子は正しく信仰する者ではありませんでした…。
ヌーフは洪水の中に息子を見つけました!
そしてヌーフは言いました:
「息子よ、私と一緒に乗りなさい」
ヌーフの息子は言いました:
「私は山に避難します」
「それは洪水から救うでしょう」
ヌーフは言いました:
「今日はゆいいつの神アッラーのご命令によってかれの慈悲を


授かる者以外は、だれも救われないのです」
その時、2人の間に波が来て… ヌーフの息子は溺れる者の一人
となりました…。

―洪水のあと―

そして大洪水のあと雨は止み、水は引いていきました…。
ヌーフたちを乗せた船はジューディー山と呼ばれる山の上に
乗り上げていました。

そしてゆいいつの神アッラーは次のように言われました:
「ヌーフよ、われからの平安によって船を降りなさい…」
ヌーフと船に乗り合わせた人や動物たちは、ゆいいつの神アッラー
からの平安のもと地上に降りることができました。

それから後…ヌーフの子孫たちは大地を受け継いでいきまし
た。ヌーフの子孫には後の預言者(よげんしゃ)や国王なども
います。ゆいいつの神アッラーは後の世代にわたりかれ(ヌ―
フ)のために次のような祝福の言葉を留めました。

「万物の中でも特にヌーフの上に平安あれ…」と。

 


 この本はアラビア語で子供向けに書かれたアブー・アル=ハサン・アリー・アンナダウィー著:「預言者たちの物語」を参照にして日本語に訳したものです。
 子供たちに様々な預言者たちの物語を読んでもらいその生涯と歴史を通じて沢山のことを学んでほしいという思いの作品です。

          ーイスラームハウスー