預言者たちの物語 ユースフ(ヨセフ)

この本はアラビア語で子供向けに書かれたアブー・アル=ハサン・アリー・アンナダウィー著:「預言者たちの物語」を参照にして日本語に訳したものです。預言者たちの物語では勇気と忍耐、誠実さ、優しさ、謙虚さなど様々な側面を読んで学ぶことができます。本書はユースフ[ヨセフ](彼の上に平安あれ)の紹介です。

اسم الكتاب : قصص النبيين للأطفال : قصة سيدنا يوسف عليه السلام


تأليف: أبو الحسن الندوي


ترجمة: محمد صالح كانيكو


الناشر: المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة


نبذة مختصرة: كتاب مترجم إلى اللغة اليابانية، عبارة عن قصة سيدنا يوسف - عليه السلام - للأطفال، والكتاب مقتبس من كتاب قصص الأنبياء للأطفال لفضيلة الشيخ أبو الحسن علي الندوي - اثابه الله -.

 

 

預言者たちの物語
ユースフ(ヨセフ)
(アレイヒ アッサラーム)

    
        

 

アブー・アル=ハサン・アリー・アンナダウィー

 



 

翻訳:ムハンマド・サーリフ 金子
校閲:アブドッラー 坂田

 


 قصص النبيين
للأطفال
يوسف عليه السلام

 

    
    
تأليف
أبو الحسن علي الندوي

 




ترجمة: محمد صالح كانيكو
مراجعة: عبد الله ساكاتا

بسم الله الرحمن الرحيم


―夢を見た少年―

むかし…むかし…。

ユースフという小さな男の子がいました。
彼には11人の兄弟たちがいました。
ユースフはとても美しく、とても頭のいい少年でした。
彼のお父さんのヤアコーブは、子供たちの中でも一番ユースフの
ことを可愛がっていました。

そんなある夜…。
ユースフは、おどろくべき夢を見ました。
それは11の星と太陽と月が、みんなユースフに向かってひれ伏し
ている夢でした。
小さなユースフは、とても驚きました。
小さなユースフには、どうして星と太陽と月が自分にひれ伏して
いるのかわかりませんでした。
ユースフは、お父さんのヤアコーブの所に行き、このおどろくべき
夢のことを話しました。


ユースフは、言いました:
「お父さん、ぼくは夢の中で11の星と太陽と月を見ました…。
それらは、みんなぼくに向かってひれ伏していました…」。
お父さんのヤアコーブは、預言者(よげんしゃ)でした。
ヤアコーブは、ユースフが見た夢についてとても喜びました。
ヤアコーブは言いました:
「ユースフよ、そなたの上にアッラーからの祝福があるように…
そなたは、いずれ偉大な人物となるであろう。この夢は、預言者
(よげんしゃ)性を示すしるしなのじゃよ」
昔、そなたのおじいさんであるイブラーヒームやイスハークの二
人にアッラーがお恵みをくだされたように、そなたやヤアコーブ
の子孫にもお恵みをくだされたのである。

その時、ヤアコーブはとてもお年寄りでした。
そして、人びとの性質を知っていました。
どのようにシャイターン(悪魔)が、人びとをそそのかすのかを
知っていました。
ヤアコーブは言いました:
「息子よ、この夢のことをそなたの兄弟たちに話してはいけない
ぞ。彼らはそなたのことをねたんで、そなたの敵になってしま
うから…」。

 

―兄弟たちのねたみ―

ユースフには、べンヤミーンいう名前の弟がいました。
父親のヤアコーブは他の息子たちよりも、この二人の息子を
とても可愛がっていました。
そのため、他の兄弟たちはユースフとべンヤミーンに対して
ねたみを持ち、そして、怒っていたのです。
兄弟たちは、言いました:
「どうして、私たちの父上はユースフやべンヤミーンを私たち
よりも可愛がっているんだ?」
「ユースフもべンヤミーンも私たちより小さく、力も弱いというの
に…」
「どうして、私たちのことをユースフやべンヤミーンのように
可愛がってくれないのだろう?私たちは若く、力もあるという
のに…」
ユースフはまだ、小さかったために自分が夢で見たことを
兄弟たちに話してしまいました。
兄弟たちがその夢のはなしを聞いたとき、彼らはとても怒り、
そして、とても激しいねたみをユースフに抱いたのです。

ある日、兄弟たちは集まりこう言いました:
「ユースフの命を奪うか、遠い土地に捨ててしまおう」


「そしたら、父上は純粋に私たちを可愛がってくれるにちがい
ない」
兄弟の一人は、言いました:
「いや、道中にある井戸の中にユースフを捨ててしまおう。そした
ら、旅をしている隊商が彼を拾うだろう」
兄弟たちは、その意見に賛成しました。

―ヤアコーブのもとへ―

兄弟たちは、その意見に賛成したあと父親のヤアコーブのもとへ
行きました。
ヤアコーブは、ユースフのことをとても心配していました。
兄弟たちがユースフをねたみ、嫌っていることを知っていたから
です。
ヤアコーブは、兄弟たちにユースフを連れて行かせませんでした。
ユースフが兄弟たちと遊ぶ時も遠くへは行かせませんでした。
兄弟たちは、そのことを知っていました。
それにもかかわらず、計画を実行することにしたのです。
兄弟たちは、言いました:
「父上、どうしてユースフを私たちと一緒に行かせてくれないので
すか?なにを心配されているのですか?彼は、私たちの大切な弟
で私たちは父上の息子ですよ」


「兄弟は、いつも一緒に遊ぶものです。それなのに、どうして彼を
連れて一緒に遊べないのですか?」
「明日、私たちと一緒にユースフを野に行かせ、遊んで気を晴ら
せるようにしてやってください。私たちは、彼を必ず守ります」

ヤアコーブは、とてもお年寄りでした。
そして、とても賢くあわれみ深い人でした。
ヤアコーブは、ユースフが彼から遠ざかってしまうのを好みません
でした。
とてもユースフのことを心配していたのです。
ヤアコーブは、息子たちに言いました:
「そなたたちが、ユースフに気をつけていないときに、オオカミが
彼を食べてはしまわないかと心配なのだ」
兄弟たちは、言いました:
「そんなことはけっしてありません。私たちが一緒にいるとい
うのに、どうしてオオカミがユースフを食べることができるで
しょう?それに私たちは若くて、みんな力が強いというのに」
それを聞いてヤアコーブは、兄弟たちと一緒にユースフが行くこと
を許したのでした。

 

 

―森へ―

兄弟たちは、父がユースフを連れていくことを許してくれたとき、
とても喜びました。
兄弟たちは、ユースフを森へと連れて行きました。そして、その森
の中にある井戸の中へ小さなユースフをあわれむこともなしに、放
り込みました。
とてもお年寄りで、とても心配しているヤアコーブにもあわれみを
かけなかったのです…。

ユースフはまだ、とても小さな子供でした…。まだ、心も小さい
のです…。
井戸の中はとても深く、とても真っ暗でした。
ユースフは、一人になってしまったのです…。
しかし、アッラーはユースフに吉報(きっぽう)を伝えました。
「悲しむことはない。恐れることもない。本当にアッラーは、
そなたと一緒にいるのだ」
「いずれ、そなたは偉大な人物になる」
「いずれ兄弟たちが、そなたのもとへとやって来てそなたは
彼らがしたことを告げるであろう…」
ユースフを井戸へと投げ入れ計画を実行した兄弟たちは集まって、
言いました:


「父上になんと言おうか?」
何人かが、答えました:
「父上は、オオカミがユースフを食べてしまうことを心配して
いた。その言われたとおりのことが起きたと言おう」
「父上、あなたの言われたことは正しかったです。オオカミが
ユースフを食べてしまいました…」と。
兄弟たちは、その意見に賛成して言いました:
「そうだ、父上にオオカミがユースフを食べてしまったと言
おう」と。
何人かの兄弟が言いました:
「しかし…その証拠をどうする?」
「血のあとを証拠にしよう」

兄弟たちは、雄羊の血を使うことにしました。
兄弟たちは、ユースフの服にその血を付けたのです。
兄弟たちは、とても喜びました。
そして、こう言いました:
「これで、父上も信じるだろう」と。

 

 


―ヤアコーブのもとへ―

日が暮れてから兄弟たちは、父親のもとに帰ってきました。
兄弟たちは、言いました:
「父上、私たちはお互いに競争をしていたとき、ユースフを荷物
のところに残していました。そのとき、オオカミが来て、彼を
食べてしまいました…」
兄弟たちは、ユースフの服を嘘の血で汚して持ってきたのです。
兄弟たちは、言いました:
「これは、ユースフの血です…」
ヤアコーブは、預言者(よげんしゃ)でした。そして、とてもお年
寄りでした。
息子たちよりも知性があったのです。
ヤアコーブは、知っていました。もし、オオカミが人間をたべてし
まったら、傷があり服は裂けていたであろうということを…。
ところが、ユースフの服は傷もなく無事でした。
服が血で汚れていることについてヤアコーブは、それがユースフの
血ではないとわかりました。オオカミに関する話は嘘なのだと。
そして、息子たちに言いました:
「いいや、これはそなたたちの作り話しだ。私は、辛抱強く
いよう…」
ヤアコーブは、ユースフのことを心配してとても、とても悲しみ


ました。それでも、ヤアコーブはとてもよく辛抱したのです。

―井戸の中のユースフ―

兄弟たちは、ユースフを井戸に置き去りにして家に戻りました。
兄弟たちは、食事をしてベッドの上で寝ました。
そして、ユースフは…深い井戸の中でベッドも食事もありませ
ん。兄弟たちは、ユースフのことを忘れて寝ました。

ユースフは、寝ませんでした。そして、ずっと忘れませんでした。
ヤアコーブは、ユースフのことを想い続けていました。
ユースフもヤアコーブのことを想い続けていました。
ユースフは、井戸の中にいました。
その井戸は、深い井戸でした。
その井戸は、森の中にありました。
その森の中には、野生の動物たちがいました。
その夜は、とても真っ暗な夜でした…。

―井戸の中からお城へ―

隊商が、この森にやって来ました。
彼らはのどが渇き、井戸を探していました。
そして、井戸を見つけ、水を持ってくるようにと男を送りました。


男が井戸のもとにやって来て、バケツを下に降ろしました。
そして、バケツを引き上げようとすると、とてもバケツは重くなっ
ていました。
そして、バケツを引き上げてみると…なんとそこには少年が
いたのです!
男は、おどろいて人を呼びました。
「吉報(きっぽう)だ、これは少年だ!」
隊商の人びとは喜び、そして、ユースフを隠しました。

隊商はエジプトに行き、市場に止まって声を高くして叫びま
した:
「だれか、この少年を買うかい?だれか、この少年を買うかい?」
ある王様が、1ディルハム(お金)でユースフを買いました。
隊商は、わずかなお金でユースフを売りました。
王様は、ユースフを連れて彼のお城へと行きました。
王様は、自分の妻に言いました:
「ユースフに優しくしなさい。彼は、賢い少年だ」

―忠実と信頼―

王様の妻は、王様を裏切ってユースフに悪さをしようと誘いまし
た。しかし、ユースフは断ります。


ユースフは、言いました:
「決して、(悪いことは)しません」
「王様を裏切るようなことはしません」
「王様は私に良くそして、優しくしてくださいます」
「私は、本当にアッラーを恐れます」と。

これに怒った妻は、王様にユースフのことを訴えました。
しかし、王様は妻が嘘をついていることを知っていました。
ユースフが、正直者であると知っていたのです。
王様は、妻に言いました:
「本当にそなたは、罪深い者だ」

その後、ユースフが美少年であるということが、エジプト中に知ら
れるようになりました。
ユースフを見た人は、言いました:
「これは、人間ではありません…これは、貴(とうと)い天使で
しょう!」
激しく怒った王様の妻は、ユースフに言いました:
「牢屋に行きなさい!」
ユースフは、言いました:
「(外で悪さをしてしまうなら)牢屋のほうがいいです」と。
数日後、王様の考えでユースフを牢屋に入れることにしました。


王様は、ユースフが無実であることを知っていました。
しかし、ユースフは牢屋に入ったのです…。

―牢屋での話―

ユースフは、牢屋に入りました。
牢屋の中にいた人びとはみんな、ユースフが立派な若者であると
わかりました。
ユースフは、沢山の知識をもっていました。
そして、ユースフの心はとてもあわれみ深かったのです。
牢屋の中にいた人びとは、ユースフのことが好きになり彼に親切
にしました。
人びとはユースフに喜び、そして、敬意をもって接したのです。

ユースフと一緒に、二人の男が牢屋に入りました。
そして、ユースフに彼らが見た夢の話をしたのです。
ひとりが、言いました:
「私は、お酒をしぼるのを夢に見ました」
そして、もうひとりも言いました:
「私は、自分の頭の上にパンをのせて運んでいると鳥がそれを
食べるのを夢に見ました」
二人は、ユースフにその夢が何を意味するのか尋ねました。


ユースフは、夢の内容を説明できる知識を持っていたのです。
ユースフは、預言者(よげんしゃ)のひとりでした。
その当時、人びとはゆいいつの神アッラー以外のものを拝んで
いました。
自分でたくさんの拝むものをもっていたのです。
これは、土地の神… これは、海の神… これは、生活の神…
これは、雨の神…。
ユースフは、それを全部見ていました。
そして、ユースフはそのことを知って泣きました。
ユースフは、彼らにゆいいつの神アッラーのことを教えてあげたい
と思いました。
ゆいいつの神アッラーは、牢屋の中でユースフがそうすることを
望まれました。
ユースフは、自分で考えました…。
ユースフは牢屋の中にいましたが、彼には自由と勇気がありま
した。
ユースフは貧しかったですが、とても寛容でした。
預言者(よげんしゃ)たちは、どこの場所にいても人びとの前で
本当のことを伝えました。
預言者(よげんしゃ)たちは、どこの場所にいても人びとの前で
よいことをしたのです。

 

―ユースフのすばらしい知識―

ユースフは、自分に言いました。
「彼らは、私の話をきっと聞いてくれると思う」
「でも、焦ってはいけない…」
ユースフは、二人に言いました:
「私はあなたたちの食事が来る前に、その夢の意味について話し
ましょう」
二人は座り、静かにしました。
それから、ユースフは二人に言いました:
「私は、夢の内容を説明できる知識を持っています」
「それは、ゆいいつの神アッラーが私に教えてくれたものです」
二人は喜び、静かにしました。
ユースフは、ここでゆいいつの神アッラーについて話したいと
思いました。

―ゆいいつの神アッラーについてのお話し―

ユースフは、言いました:
「その夢についての知識は、ゆいいつの神アッラーが私に教えてく
れたものです…」
「ただし、その知識はみんなに与えられるものではありません。」


「どうして、ゆいいつの神アッラーは、私に教えてくれたのか
わかりますか?」
「それは私が、ただゆいいつの神アッラーだけを大切にしている
からです。」
「私は、イブラーヒームとイスハークとヤアコーブの教えに従って
います」
「私たちは、他のものを拝んだりはしません」
ユースフは、言いました:
「それは、私たちだけでなく人びとみんなのためのものです」

―夢の意味―

ユースフは話し終えたあと、二人が見たその夢の意味について話し
ました。
ユースフは、言いました:
「一人は、主人のためにお酒をつぐことになるでしょう」
「そしてもう一人の人物は、十字架にかけられて鳥が頭から
ついばむでしょう」
そして、ユースフは一人目の人物に言いました:
「あなたの主人に、私のことを伝えてください」と。
夢を見た二人は、牢屋から出ました。

 

そして一人目の人は、主人にお酒をつぐことになり、もう一人
は十字架にかけられたのでした…。
ユースフが、主人に自分のことを伝えてくれるように頼んだ一人目
の人は、ユースフとの約束を忘れてしまいました。
そのためユースフはその後、数年間、まだ牢屋の中に留まること
になったのです…。

―王様の夢―

エジプトの王様はある日、夢を見て驚きました。
夢の中で七頭の肥えた牛を見ました。
そしてこの七頭の肥えた牛は、七頭のやせた牛に食べられて
しまいました…。
また王様は、緑色の七穂と枯れた七穂の夢を見ました…。

夢の内容にとても驚いた王様は、側近たちにその夢が何を意味して
いるのか尋ねました。側近たちは、言いました;
「特別なことは何もありません。寝ている人が見る夢の多くは、
実際には何も起こったりはしないことです…」

以前、牢屋の中にいた一人の男は、言いました;
「いや、私がその夢の意味することをお話しましょう」

 

男は牢屋へと行き、ユースフに王様が見た夢の内容は何を意味
するのかと尋ねました。
ユースフは、ゆいいつの神アッラーが創造されたものに対して
寛容に立派な振る舞いでもって、その夢の意味を答えました。
ユースフは、寛容で惜しむことをしませんでした。
ユースフは、夢の意味を説明しました。
そして、計画案を示しました…。

ユースフは、言いました;
「あなたがたは七年の間、例年のように種をまきなさい。
そして刈り取ったものは、あなたがたが食べるのに必要な分
少しを除いて、もみのまま貯蔵しておきなさい」
「その後、干ばつの年が来てあなたがたは、以前に貯蔵したもの
を食べ、貯えたものは少ししか残らなくなるでしょう」
「それは、七年続きます…」
「その後、恵みが来て肥沃な土地になるでしょう」
そのことを聞いた男は王様のところへと行き、夢が意味している
内容について伝えたのでした。

―王様、ユースフに使いを送る―

王様は、この夢の内容についての説明とその計画案を聞き、とても


喜びました。
王様は、言いました:
「誰がこの夢の意味を解いたのだ?」
「私たちに計画案を示してくれた親切な、その人物は誰なの
だ?」
使いのものは、言いました:
「それは、誠実なユースフです」
「彼は、私が王様のお酒つぎになることを教えてくれました」
王様は、ユースフのことを思い出して、とても会いたくなりま
した。
そして、ユースフのもとへ使いを送ったのです。
王様は、言いました:
「彼をわたしのもとに連れて参れ。私は、側近としてかれを引き立
てよう」と。

―国庫の管財者―

ユースフは、あまり人は信用できないものだということを知って
いました。
ユースフは、人がたくさん裏切るということも知っていました。
ユースフは、きっと人びとはアッラーの財も無駄にしてしまうの
だろうと思いました。


国には貯蔵しておく倉庫が沢山ありましたが、みんな浪費して
いました。
それは管財者たちが、アッラーのことを恐れていなかったから
です。
彼らの犬たちが食べてしまい人びとの食べ物はありませんでした。
彼らが服を取ってしまい、人びとの服はありませんでした。
きちんと責任をもって知識のあるものが国の倉庫を管理しない
と、人びとのためにはならないと思いました。
知識や責任感のない者は、倉庫のものをむさぼり信用を裏切る
からです。
ユースフは、信用があり責任感がありました。
ユースフは、国の管財者たちが人びとのものを好き勝手に手にし
ているのを放っておきたくありませんでした。
ユースフは、人びとが食べ物に困って飢えに苦しみ、死んでしま
うのを見たくありませんでした。
ユースフは、正しいことのためにはためらいませんでした。
ユースフは、王様に言いました:
「わたしをこの国の国庫の管財者に任命してください。わたしは
本当に知識のある管理者です」

こうしてユースフは、エジプトの国庫の管財者となったのです。
国の人びとは、とても安心してアッラーを讃えました。


―(ユースフの)兄弟たちが来る―

ユースフが言ったようにエジプトとシャーム地方で、飢饉(きき
ん)がおそいました。
シャーム地方の人びととヤアコーブは、エジプトに本当に慈悲深
い人がいることを聞きました。
エジプトにいて、とても寛容ですばらしい彼はエジプトの国庫
の管財者であると知りました。

人びとは彼のもとへと行き、食糧を受け取りました。
そしてヤアコーブは、息子たちに食糧をもらってくるため、お金
を持たせてエジプトへ行かせました。
べンヤミーンは、ヤアコーブのもとに残りました。
なぜなら、ヤアコーブは彼のことをとても可愛がっていたから
です。
ヤアコーブは、べンヤミーンが自分のもとから離れることを望み
ませんでした。
べンヤミーンが、ユースフのようになってしまうことを心配したか
らです。
ユースフの兄弟たちは、ユースフのもとへと行きました。
兄弟たちは、国庫の管財者が自分の兄弟のユースフだとは知り
ません。


兄弟たちは国庫の管財者が、井戸に投げ入れたあのユースフだと
は知りません。
兄弟たちは、ユースフはすでに井戸の中で死んだと思い込んで
いました。
どうして、井戸の中にいて死なないことなどあるでしょう?
あの井戸は、とても深かったのです…。
あの井戸は、森の中にあって森の中にはたくさん野生の動物
たちがいました…。
あれは夜の時間帯で、夜はとっても真っ暗だったのです…。

兄弟たちは、ユースフの前に来ました。
ユースフは、彼らが自分の兄弟だとわかりました。
しかし、兄弟たちは彼が自分の兄弟であるユースフだとは
気づきませんでした…。

ユースフは、彼らが自分を井戸に投げ入れた兄弟たちだと
わかりました。
兄弟たちは、むかしユースフの命を奪おうとしました。
しかし、アッラーがユースフを守ったのです。
ユースフは、兄弟たちを前にして何も言いませんでした。
自分がユースフであることをまだ、言いませんでした。

 

―ユースフと兄弟たちの会話―

ユースフは、兄弟たちに言いました:
「どこから、来たのですか?」
兄弟たちは、言いました:
「カナアーンから来ました」
ユースフは、言いました:
「あなたたちの父親は、誰ですか?」
兄弟たちは、言いました:
「父にイスハーク、祖父にイブラーヒームをもつヤアコーブが
私たちの父親です」
ユースフは、言いました:
「あなた方には他に兄弟がいますか?」
兄弟たちは、言いました:
「はい、べンヤミーンという弟がいます」
ユースフは、言いました:
「どうして、あなた方と一緒に来なかったのですか?」
兄弟たちは、言いました:
「私たちの父が、彼を放っておくことや彼のもとを離れるのを
望まないのです」
ユースフは、言いました:
「何の理由で放っておかないのですか?弟は、とても小さいの


ですか?」
兄弟たちは、言いました:
「いいえ、以前、弟にはユースフという兄弟がいて私たちと一緒
に一度出かけたことがあります。私たちが競争に夢中になっ
て遊んでいたときに、荷物のところに残しておいたユースフは、
オオカミに食べられてしまったのです」

それを聞いたユースフは、心の中で笑いました。
しかし、何も言いませんでした。
そして、ユースフは兄弟のべンヤミーンにとても会いたくなっ
たのです…。

そして、アッラーはヤアコーブに対して、二度目の試練(しれ
ん)を望まれました。
ユースフは、兄弟たちに食糧を与えるように命じました。
ユースフは、兄弟たちにいいました:
「あなた方と同じ父親の兄弟を一人、私のもとに連れてきなさい」
「もし連れてこなければ、食糧を受け取れないでしょう」
ユースフは、部下に命じて言いました:
「かれらの(穀物と交換するときに払った)代価を彼らの袋の
中に入れておきなさい」と。

 

―ヤアコーブと息子たちの会話―

兄弟たちは父であるヤアコーブのもとへと戻り、一連の出来事を
話しました。
兄弟たちは、言いました:
「私たちと一緒に弟を連れて行かせてください。管財者のふるま
いは、本当によきことばかりでした」
兄弟たちは、ヤアコーブにべンヤミーンを連れていけるように頼み
ました。
「私たちは、必ず彼(べンヤミーン)を守ります」と。
ヤアコーブは、言いました:
「私は以前、ユースフについてあなた方を信用したように
べンヤミーンについてもあなた方を信用できようか…」
「ユースフのことを忘れたのか?」
「べンヤミーンのことを守れるのか?」
「ゆいいつの神アッラーこそ守られるお方だ。彼こそ慈悲深い
方の中でも最も慈悲深いお方だ…」

兄弟たちは、代価を彼らの袋の中に見つけました。
兄弟たちは、父のヤアコーブに言いました:
「私たちが会った国庫の管財者は、本当に寛容な方です…」
「私たちが払った代価を受け取らず返してくれました」


「べンヤミーンを私たちと一緒に連れて行かせてください」
「彼の分も合わせて、より多く食糧を頂けるはずです」
ヤアコーブは、息子たちに言いました:
「そなたたちが余程、避けがたい障害に合った場合を除いて
必ずべンヤミーンを連れて戻ると約束しない限り、彼をそなた
たちと一緒には行かせられない」

そこで兄弟たちは、アッラーにかけて誓いの約束をしました。
ヤアコーブは、言いました:
「ゆいいつの神アッラーは、私たちが言ったことを見ておられる
お方だ…」
ヤアコーブは、言いました:
「息子たちよ、(町に入るときは皆が)ひとつの門から入っては
ならない」
「そなたたちは、別々の門から入りなさい」

―べンヤミーンと再会―

兄弟たちは、ヤアコーブに言われたように別々の門から町に入り
ました。
そして、ユースフにあいさつしました。
ユースフはべンヤミーンを見た瞬間、とても喜び彼のもとへと


降りて行きました。
ユースフは、べンヤミーンに言いました:
「わたしは、あなたの兄です…」
べンヤミーンは、安心しました。
ユースフは長い時間が過ぎて、べンヤミーンに会うことができま
した。
ユースフは、母親のこと… 父親のこと… 家のこと… 小さかった
時のことを思い出したのです。
ユースフは、べンヤミーンを自分のところに残しておきたいと思い
ました。
毎日、彼を見て… 話して… 家のことを尋ねたかったのです…。
しかし、明日べンヤミーンはカナアーンに戻ります。
どうしたら、べンヤミーンを自分のところに引き留めて置くことが
できるでしょう…
兄弟たちはゆいいつの神アッラーにかけて、べンヤミーンを連れ
て父親のもとに戻ると約束しているというのに…。
一体…どういう方法があるでしょう…
何の理由もなしに自分のところに引き留めておくことはでき
ません。
人びとは、言うでしょう:
「国庫の管財者が、何の理由もなくカナアーンの人を捕まえたぞ。
実に不法なやり方だ…」と。


しかし、ユースフはとても賢い人物でした。
ユースフのもとには、高価な盃(さかずき)がありました。
ユースフは、それを使って飲んでいました。
ユースフは、この盃をべンヤミーンの袋の中に入れました。
そして、ある者が呼び掛けました:
「隊商よ、あなたがたは確かに泥棒です!」
兄弟たちは、振り向いて言いました:
「あなたたちの何がなくなりましたか?」
人びとは、言いました:
「私たちは、王様の盃をなくしたのです」
「それを持ってきた者には、ラクダ一頭分の荷を与えるでしょう」
兄弟たちは、言いました:
「アッラーにかけて誓います。私たちは、この国で悪さをするため
に来たのではないことをあなたたちはご存知のはずです」
「私たちは、盗みなどしません」
人びとは、言いました:
「あなたたちが嘘をついていたらどうその責任を取りますか?」
兄弟たちは、言いました:
「その責任は誰でも、袋の中から(盃が)発見されたものにあり
ます」
「彼がその責任を取ります」
「そのようにして、私たちは悪さをした者を罰します」


盃はべンヤミーンの袋の中から出てきました…。
兄弟たちは、とても驚いて恥ずかしくなりました。
しかしながら、兄弟たちは恥ずかしげもなく次のように言いま
した:
「もし、べンヤミーンが盗んだとすればかれの兄(ユースフ)も
以前、確かに盗みをしました」と。

この嘘を聞いたユースフは、黙ったまま怒りませんでした。
ユースフは、寛容でした。
ユースフは、我慢強かったのです…。

兄弟たちは、言いました:
「申し上げます…彼にはとても年老いた父親がいます」
「そのため、彼の代わりに私たちの一人を拘留(こうりゅう)
してください」
「お見うけしたところ、あなたは本当によい行いをなされるお方
でございます…」
ユースフは、言いました:
「ゆいいつの神アッラーは、私たちの物をそのもとで見つけた
者以外の誰も捕まえることはできないとしている」
「もしそうしないと、私たちは悪さを行うことになって
しまう」


こうしてべンヤミーンは、ユースフのもとに残ることができま
した。
そして、二人はお互いに喜びました…。
ユースフは本当に長い間、家族に会えずにひとりだったのです。

―ヤアコーブのもとへ―

兄弟たちは、どのようにヤアコーブのもとに戻るべきか悩んでい
ました。
兄弟たちは、ヤアコーブになんと言おうかと考えていました。
兄弟たちは、以前ユースフを失わせ今日はべンヤミーンを
連れて戻れないのです…。
兄弟の中で年長の者は、ヤアコーブのもとへ戻ることを拒みま
した。
そして、兄弟たちに言いました:
「あなたたちは、父のもとに戻って言いなさい」
「父上、べンヤミーンは実際に盗みを働きました」
「私たちは、知っていることの他は証明できません」
「そして、目に見ていないことに対してはどうしようもなかっ
たのです」と。
ヤアコーブは話を聞いたとき、すべてはゆいいつの神アッラー
の御心のままであり、そして、自分を試験されているのだと


知りました。
ヤアコーブはユースフを失い、今日べンヤミーンを失いま
した…。
ゆいいつの神アッラーは、二つの災難にかけることはないだ
ろう…。
ゆいいつの神アッラーは、二人の息子たちを失わせることは
しないだろう…。
ゆいいつの神アッラーには、私たちの知らない隠された英知が
ある…。
ゆいいつの神アッラーはしもべたちを試験して、それから
喜びや恩恵をあたえてくださる。
年長の息子が、エジプトに残りカナアーンに戻ることを
拒んだ…。
いま二人を失って、三人目も失くすことはないだろう。
ここでヤアコーブは、落ち着いて言いました:
「ゆいいつの神アッラーは、かれらを皆、私にお送りくださる
かもしれない…」と。

 

 

 


―秘密が明かされるとき―

しかし、ヤアコーブもひとりの人間です。
その胸の内にある心臓は、石のかけらからできているわけでは
ありません。
ユースフのことを思い出すと繰り返し悲しみがこみ上げて
きました…。
そして、ヤアコーブは言いました:
「ユースフのことを思うと… 悲しくてならない…」
息子たちは、ヤアコーブを責めるように言いました。
「父上、ユースフのことを考えてばかりいるとそのまま死んで
しまいます…」
ヤアコーブは、言いました:
「私はアッラーに対して、私の悲しみと悩みを訴えている
だけだ…」
ヤアコーブは、絶望してはいけないことを知っていました。
ゆいいつの神アッラーに望みを抱いていたのです。
ヤアコーブはユースフとべンヤミーンを探させるため、子供
たちをエジプトへ送りました。
ヤアコーブはゆいいつの神アッラーの慈悲に対して、望みを
捨てないように言いました。
そして、息子たちはエジプトに三度目の旅に出たのです。


兄弟たちはユースフのもとへ行き、彼らの貧しさと苦難を
ユースフに訴えました。
そして、ユースフにあわれみをかけてくれるように頼みま
した。
この時、ユースフは悲しみと愛情に心をかき乱され、自分の
感情を抑えることができなくなりました…。
父上の息子たち、そして、預言者(よげんしゃ)の息子たちが、
その貧しさと苦難のために国庫の管財者に訴えているのです。
いつまで、自分の正体を兄弟たちに隠しているのだろう…。
いつまで、彼らの状況を見続けているつもりだろう…。
そして、いつまで父上のことを見ないでいられるという
のか…。
ついに、ユースフは自分の感情を抑えることができなくなり
ました…。
そして、言いました:
「そなたたちは、ユースフとその弟にどんなことをしたか、
知っているか?」

兄弟たちは、驚きました…。

この秘密は、ユースフと自分たちにしか知らないことです…。
次の瞬間、目の前の人物が… ユースフであると気が付いたの


です!
兄弟たちは、言いました:
確かに死んでいたはずのユースフが、生きている…。
ユースフが… エジプトの国庫の管財者に…
彼(ユースフ)が私たちに食糧を分配していたなんて…。

兄弟たちは、これまで話していた人物がヤアコーブの息子
ユースフであることに疑いがなくなりました。
兄弟たちは、言いました:
「すると本当にあなたは、ユースフなのですか?」
ユースフは、言いました:
「私は、ユースフです。これは私の弟です」
「アッラーは、私たちに恵み深くあられます」
「アッラーをおそれ、しっかりと耐え忍べば、よいことをする者
にその報奨をお与えくださいます」
兄弟たちは、言いました:
「アッラーにかけて… 本当にアッラーはあなたを私たちより上
にお引き立てになされました」
「私たちは、本当に悪い行いをした者たちです…」

ユースフは、兄弟たちがしたことを責めたりはしませんで
した…。


代わりにこう言いました:
「アッラーは、あなたがたをお赦しになるでしょう」
「アッラーは、慈悲深い方の中でも最も慈悲深いお方です」

―兄弟たち、ヤアコーブのもとへ―

ユースフは、ヤアコーブのことを思ってとても会いたくなり
ました…。
とても長い間、離れて暮らしていたのです。
自分の正体を明かした今となって、もう我慢する必要がどこに
あるでしょう…。
父上が、よいものを飲んだり食べたりもせず寝てもいないと
いうのに…
自分だけが飲んだり、食べたりすることはできません…。

そして、アッラーはヤアコーブが喜ぶのを望まれました。
ヤアコーブは、たくさん泣き悲しんだために両目が白くなっ
てしまったのです…。
ユースフは、言いました:
「あなたたちは、私のこの肌着をもって帰り父上の顔に投げか
けなさい」
「父上は、眼が見えるようになるでしょう」


「そして、あなたたちは家族そろって私のところへ来なさい」

―ヤアコーブ、ユースフのもとへ―

人びとがユースフの肌着をもってカナアーンに向かったとき、
ヤアコーブはユースフの匂いを感じました。
ヤアコーブは、言いました:
「私には、たしかにユースフの匂いがするぞ…」
息子たちは、言いました:
「アッラーにかけて… それは、あなたの老いのせいです」
しかし、ヤアコーブは正しかったのです。
それから、吉報(きっぽう)を伝える者が帰って来て、肌着を
ヤアコーブの顔に投げかけると… すぐに彼の視力は回復し
ました。
ヤアコーブは、言いました:
「私は、そなたたちに言わなかったか?」
「そなたたちが知らないことを私は、アッラーからの啓示で知っ
ているのだ」

息子たちは、言いました:
「父上、私たちのために罪の赦しを祈ってください」
「私たちは、本当に悪い行いの者でした…」


ヤアコーブは、言いました:
「私は、そなたたちのためにアッラーにお赦しを願う」
「本当にアッラーは、寛容で慈悲深いお方である」

ヤアコーブがエジプトに到着したとき、ユースフが出迎えました。

二人が大変、喜んだのはいうまでもありません。
エジプトは、祝福に包まれた記憶深い日となりました。

ユースフは、両親を高座に上らせました。
すると… 一同は、ユースフにひれ伏しました…。
ユースフは、言いました:
「父上… これは私が昔、夢見たことの解釈です…」
「アッラーは、それを真実になさいました…」
「ぼくは夢の中で、11の星と太陽と月を見ました…。それらは
みんな、ぼくに向かってひれ伏していました…」
あの時の夢の…。
そして、ユースフはアッラーをたくさん讃(たた)えました。
そして、ユースフはアッラーにたくさん感謝しました。

その後、ヤアコーブの家族は長い間、エジプトに暮らしました。
そして、ヤアコーブとその妻はエジプトで亡くなったのです…。

 

―ユースフの望み―

ユースフは、彼の人生が終わりを迎える時、正しい人びとの一人
として亡くなれるよう望みました…。
ユースフは、言いました:
「アッラーよ、あなたは私に権能(けんのう)を与えてくれ
ました」
「また、出来事の意味を教えてくださいました」
「天と地をお創りになられたアッラーよ」
「あなたは、現世と来世でわたしをお守りくださるお方です」
「私を正義の人びとの中に入れてください…」

ユースフは祖父イブラーヒーム、イスハーク、ヤアコーブを
継ぎ、ムスリムとして亡くなりました。

彼らの上にアッラーからの平安がありますように…。

 

 

 

 

 この本はアラビア語で子供向けに書かれたアブー・アル=ハサン・アリー・アンナダウィー著:「預言者たちの物語」を参照にして日本語に訳したものです。
 子供たちに様々な預言者たちの物語を読んでもらいその生涯と歴史を通じて沢山のことを学んでほしいという思いの作品です。

          ーイスラームハウスー
                

 

預言者たちの物語 ユースフ(ヨセフ)

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